【完】さつきあめ
ざあざあと雨の音だけが耳の奥を突き刺していく。
いつかもこんな日があった気がする。
重たい扉の奥にあった人と、わたしはどう向き合おうとしていたのだろう。この時
「あ、さくら、お前びしょ濡れじゃん。傘持ってなかったの?」
わたしの姿を見て、驚いたように涼が駆け寄ってきた。
「タオル、持ってくる」
「いい。いらない」
1番奥のソファーの席で、たったひとり、目を瞑って足を開いて座る。
テーブルの上には、いつも飲まないお酒があって、空のグラスが散乱してる。
わたしの後を追ってきた涼が耳打ちする。
「てか、ちょうどいいところに来てくれた
どうにかしてよ、あれ」
ソファーの上に座っている朝日は目を瞑る。
寝息ひとつたてやしないから、眠っているのかさえわからない。
「この間美優ちゃんたちが飲みにきた時かなり荒れて帰ってたかと思えば、今日も店に来て無茶して飲むもんだから。
またどーせさくらと何かあったんでしょ?俺今日忙しくてつけないけど、だいじょうぶ?」
涼はわたしと朝日を交互に見て、心配そうな顔をした。
「だいじょうぶ、ありがとう、涼」
わたしは朝日に近づいて、そっと髪に触れる。
いつもわたしが見ないようにしてきたもの。
でも眠っている朝日は、光によく似ていて、まるで死んでいるようだった。