【完】さつきあめ
どうして、わたしはいつも肝心なところで、大切な事を伝えられずに
傷つける事しか出来なくて
「もう待たねーよ」
言い捨てた言葉。
それを言って、朝日は再び座ったまんま目を閉じた。
どれだけそのまま時間が流れたのだろう。
気が付いたら、心配そうにわたしと朝日を見つめる涼の顔。
「おい、だいじょうぶか?もう閉店の時間なんだけど…」
お店はすっかりさっきまでの賑わいを失い、カウンター席に女の人がひとり。
心なしか、わたしを見て、嫌な顔をしてつんと横を向いた。
「ちょっとアフター入ってて、一緒に帰れないんだけど…」
「そう、だよね。あたし宮沢さん送って行くから!」
「でもひとりでおっさん抱えていけるか?お前非力だし…」
「だいじょうぶ!タクシーまで送ってくれたら、マンションに着いたら由真さんにでも連絡するよ」
「ならいいけど…」
涼と一緒に朝日をタクシーまで乗せて
車内でも朝日はぴくりとも動かなかった。
本当に眠っているのか。どっちにしても静かに眠る朝日だから、その真意はわからなかった。
マンションに着いてタクシーから降りて、由真に電話を掛けようとした時、朝日はゆっくりと立ち上がった。