何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
なんか知らないけど、この人はよく寝る。学校に睡眠を取りに来てるんじゃないかと思うほど。

しかし、古文の担当教諭の佐藤先生は、ねちっこく容赦がない男性だ。

よそ見をしていたり、寝ていたりしているものを指名しては、返答できない様子を見て嫌味を言う。

ーーまあ、集中してない方が悪いんだろうけど。でも、古文なんて高校生の私たちには苦行でしかないんだから、少しくらい大目に見てほしいと思ってしまう。

そして、案の定。


「じゃあ、「まうく」の単語の意味をーー中井」


あまりにも堂々と睡眠を貪る中井くんを、佐藤先生が指名する。

中井くんは指されたことに全く気づいていない。先生の逆鱗に触れそうなので、私はこっそり彼の背中をゆすった。


「ーーえ、あ……。はい」


そして状況を理解したのか、眠そうな声を上げながら席を立った。

だがもちろん、質問内容すら理解していない彼に答えられるわけはなく、テキストを見ながら「えーと……」なんて言っている。

佐藤先生の顔が引きつる。

もうハラハラする。見てられない。

私はこっそり、彼の机の上に自分のノートを起き、質問の答えの部分をシャーペンの先で示した。


「あ、じゅ、準備する、です!」
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