何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。





授業が終わり帰宅すると、看護師のお母さんが夕方からの勤務へ行く準備をしていた。


「ただいま」

「おかえり! あ、晩御飯冷蔵庫に入ってるからねー! チンして食べんのよー!」


お母さんは太陽のような笑顔を私に向けて言う。彫りが深く美しい顔立ちが、さらに眩しく光った。

私が物心着く前に、父とは病気で死別している。しかしお母さんはいつだって明るかった。子育てに仕事に、息をつく暇なんてないはずなのに。

そんなお母さんが私は大好きだ。だから、余計な心配をかけちゃならない。


「桜、最近学校どうー? もう高校生になって2ヶ月ね。慣れた?」


通勤バッグの中を整理しながら、お母さんが尋ねてくる。ソファに座る私はギクリとしたが、お母さんに向けて笑顔を作って、明るくこう返す。


「うん、それなりに楽しくやってるよ」

「そうなの? あんまり友達の話をしないから、どうなのかなって。中学生のときは、よくしていたのに」

「いちいち親に話すような年でもないの。まあ、ちゃんと友達できてるから」

「ふーん、それならいいんだけど……」


何か言いたそうにお母さんは私の方を見た。ーー中学の時とはテンションが違う私の様子を、少し不審に思っているのかもしれない。
< 13 / 256 >

この作品をシェア

pagetop