何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
その兄弟はあまりにも近しい存在で
それからしばらくの間、私はやはり花を持って悠の病室へと通った。

卵焼きをおいしいと言って食べてくれたことが心の底から嬉しくて。

私はその後も、時々作って差し入れをした。その度に、笑顔で食べてくれる悠。

悠の記憶はまだ戻っていないけれど、彼は毎日顔を出す私に、だいぶ打ち解けてくれてきたと思う。

気心の知れた仲のように談笑する機会も増えて、たまにもう記憶が戻っているんじゃないかと錯覚する時すらあるほどだ。

まあ、そんな時に限って美香ちゃんが現れて棘のあることを言われ、現実に引き戻されてしまうのだけど。

ーーでも。

もしかしたら記憶が戻らなくても、悠と特別な間柄になれるかもしれない。ーーまた、私のことを好きになってくれるかもしれない。

そう思えるほど、最近の悠は私との時間を楽しく過ごしてくれているように見えた。

私が顔を出せば満面の笑みで迎えてくれ、帰り際はひどく寂しそうな瞳で見つめてくれる。

私、頑張る。あなたの記憶が戻るように。ーーいや。

例え記憶が蘇らなかったとしても、あなたの傍に居て、心の支えとなれるように。

最近の私は、毎日そんな前向きな想いを抱きながら、悠の元へと通っていたのだった。

ーーだが。
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