何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
ーーこんな針のむしろにいるような状況、耐えられなかった。

私は3人に何も言わずに、飛び出すように病室から出た。

そしてなるべくそこから離れるように、廊下を走って移動する。

途中で看護師さんに注意されたような気がしたけれど、上の空でよく覚えていない。

気づいた時には、病院の中庭のベンチに座り込んでいた。

ーーなぜ、どうして。なんで。何があって、こんなことに。

訳が分からない上に、ひどい悲しみで胸がいっぱいで、私はぼんやりと虚空を眺める。

涙は枯れてしまったようで、すでに出なかった。

ーーすると。


「桜……?」


私を呼ぶ声が聞こえた気がした。しかし空耳のような気がしたし、反応する元気もなかったのでスルーする。ーーしかし。


「桜……だよな?」

「おねーちゃん?」


今度は至近距離から、2人の声が聞こえてきたのでさすがに私は声のした方を向く。

しかもその声が、やたらと聞き覚えのある声のような気がした。

そして、声の主たちの顔を見た結果、やはりそれは気のせいではなかったのだった。


「渉くんに、実くん……?」


ベンチに座る私の前にいたのは、心配そうに私の顔をのぞき込む、渉くんと実くんだった。
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