何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。



「はい、できた。……飛ぶかは分からないけどね」


折り紙で作った紙飛行機を実くんに手渡すと、「わー! やったー! ありがとう!」と、彼は瞳を輝かせた。

紙飛行機なんて小さい頃に作った以来で、ちゃんとした折り方なんて覚えていなかったけれど、うろ覚えの記憶を頼りに丁寧に折ったら、それっぽい見た目になってくれた。

実くんが紙飛行機を虚空に向かって投げつける。思いの外それは飛んでいって、数メートル先の木の幹にぶつかって地面に落下した。

「わー」と元気よく叫びながら、実くんがそれを拾いに行った。

ーー2人は、入院しているお母さんのお見舞いに来ていたとのことだった。

しかし今彼らのお母さんは検査中で、それが終わるまで渉くんは中庭で実くんを遊ばさせて待っていたのだ。

それでその中庭のベンチに私の姿を発見し、話しかけてくれたのだった。


「ーー7月以来か。久しぶりだな、桜」


少し離れた場所で紙飛行機遊びに興じる実くんを見ながら、ベンチで私の隣に座る渉くんが言った。

トラ子が中井家に引き取られてから、私はあの公園へ行く必要がなくなってしまった。それから渉くんと実くんには会っていない。
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