何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
* 悠side

俺の病室の窓は中庭が一望できるようになっている。

入院中の時間潰しは、友人が持ってきた漫画を読んだり、スマホを適当にいじったり、美香と他愛もない話をしたりすることが主だったけれど、なんとなくぼーっと窓の外を眺めることも多かった。

特に外を見ることが多いのは、見舞い客のいない、一人の時間だ。例によって今日も、俺は孤独なその時間に外に視線を移す。

今日もあの子は、小さな男の子と、男の子の兄らしい俺と同世代くらい男と中庭で遊んでいた。最近よく目にする光景だ。

男の子とその兄らしい男とは、以前に公園で会った記憶がある。金に近い髪に、鋭く綺麗な瞳の持ち主の男。忘れるわけなんてなかった。

ーー中庭が臨める出窓には、たくさんの花達が綺麗に置かれている。

プリザーブドフラワーという加工された花で、特に手入れをしなくても長い間美しい姿を保てるらしい。母さんが言っていた。

美香は、「あんな嘘をつく子が持ってきた花なんて、大事にする必要ないのに」と、気に入らない様子。

だけど俺はあの子が持ってきた花を1つも捨てずに、1つ残らず出窓に飾っていた。奏も飾るのを手伝ってくれることもあった。
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