何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。



ナースステーションに悠への花を託し、そのあとの時間を渉くんと実くんと過ごす。私はそんな日々をまたしばらくの間繰り返した。

ーーもう2週間近く悠の顔を見ていない。「もう来ないでくれ」とはっきりと言われたあの日から。

悠の顔が見たくてたまらなくなっていた。できれば昔のように、私との時間を大切にしてくれる悠に会いたいけれど、この際そうじゃなくてもいいと思うようにすらなりつつあった。

ーーたとえ邪険にされたとしたも、あなたに一目会いたくてたまらない。

だけど、会いにいく勇気はどうしても出なかった。

そんな風に葛藤しているある日のこと。私はいつものように、病院に着くなりナースステーションに向かった。

ーーすると。

遠くから、子供の泣き声が聞こえてきた。泣き声というと、表現が少しソフトになってしまう気がする。

それは喚き声……いや、絶叫に近かった。病院のどこかで、小さな子供が深い絶望に苛まされている。

そしてその声が聞こえてきたのが、悠の病室の方だった気がしてきたので、私は不安を感じて恐る怒る久しぶりにそこへ向かってみた。

しかし、結果的にその絶叫は悠の病室から発生しているものではなかった。悠がいるはずの305号室は、無機質な扉で静かに閉ざされている。

ーーこの中に、今も悠がいるんだな。
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