何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
実くんにとって、その月日は私たち以上に長いものに思えただろう。

ひょっとした永遠に、未来永劫……お母さんが起きることは無い、と思ってしまったのかもしれない。


「おかあ、しゃん! お、おかあ……さーん! お、お、おき、てー! おきて、よお!」


病室の中からは、実くんの嗚咽混じり声がひっきりなしに聞こえてきた。

聞いているだけで心臓が張り裂けそうになる。なんて残酷で、むごい現実なのだろう。


「ーー渉くん」

「え?」

「中に入っても、いい……?」


恐る恐る私は尋ねた。いてもたってもいられない。私にできることなんてないかもしれないけれど、実くんのそばに居てやりたかった。

渉くんは、実くんとお母さんを二人っきりにさせてあげたくて、きっと部屋の外に出ているのだろうけど。

第三者の私が入ることで、実くんの気が少しでも紛れればいいと思った。


「いいよ」


ためらう素振りも見せずに、渉くんが了承した。私は深く頷いて、そっと312号室へ入室する。


「おか……さんっ! おかあさああんっ……!」


実くんの悲痛な叫びが今まで以上に大きく聞こえた。聞いているだけで辛くなってしまうが、私はゆっくりと、実くんへと近づいた。

実くんは、ベッドの隅にもたれかかり、布団に顔を突っ伏していた。ベットには、金髪でロングヘアの美しい女性が、昏昏と眠っていた。
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