何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
眠り姫、という表現がここまで似つかわしい人がいるのだろうか。

彫刻のように整った顔立ちに、煌びやかでツヤツヤの髪。渉くんはこの人と私が似ているって言っていたけど、そんなことを自分が認めるのは、おこがましいとすら思える。

血色も悪くなく、心地よさそうな様は今にも起きてきそうだ。ベッドの傍らに備え付けてある、脈拍やらを表示している機械が、なんだか寂しい。


「おねえ……ちゃ、ん?」


私が傍らに立ったことに気づいたらしい実くんが、顔を上げた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔。汚いとは思わなかった。いたいけで、愛しいと感じた。

私は屈んで、実くんと視線を合わせる。彼は私に勢いよく抱きついてきた。


「おかあさんがっ、ぼくの、おかあさんがっ……!」

「うん……」


私は頷いて、実くんの頭をそっと撫でる。子供特有の柔らかい毛質が、可愛らしい。


「どうしてっ! ねえ、どうしてっ、起きないのっ!? ぼく、といっしょに……ひっく、いてよおおお!」

「っ……!」


それはあまりにも悲痛で、健気で、純粋な叫びで。

私は何も言うことができない。本当にどうしてなのだろう。

実くんは、一番母親が必要な時期じゃないか。お母さんと一緒に過ごして、お母さんとご飯を食べて、遊んで、一緒におねんねして。

それが一番大切な時期じゃないか。
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