何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
ーーまあ、私にはよくわからないけれど。

今はそんなことを気にするより、やるべき事がある。


「何か、用?」


機嫌がいいとも悪いともいえない、淡々とした声音で悠が尋ねる。何を考えているかわからない。ーーだけど。

彼の傍らの出窓には、色とりどりの花々が所狭しと飾られていた。

今日看護師さんに預けたばかりのものも、昨日や一昨日送ったものも、入院したばかりの日に、初めて届けたガーベラのプリザーブドフラワーも。

見た限り、1つとして捨てられていない。私が悠へと送った花達は、1つ残らずそこに存在していた。

ーーああ、やっぱり。

悠は悠の、ままなんだね。私のことを、忘れてしまったとしても。


「ちゃんと、言おうと思って」

「何を?」


私を悠を強く、深く見つめた。彼は少したじろいだようだった。瞳に動揺の色が走ったのが見えた。

私は薬指に付けている、ガラスドームの桜の指輪を、指の腹でそっと撫でた。私達の約束が、確かに存在した証を。


「私、ずっと悠を信じてる。ずっと待ってる。何年、何十年経とうと。ーーいつまでも、待ってる」


悠に告げた、全身全霊の決意。私はもう、揺るがない。後ろ向きになったりしない。

もう、泣かない。
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