何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
「ーーごめんね。覚えてなくて、思い出せなくて。折原さんと交わした約束ってやつも、その指輪のことも……。やっぱり俺には、なんのことなのかわからないんだ」


優しい口調だった。嫌悪感や拒絶は、一切見受けられない。ただ悠の、申し訳ないという気持ちが伝わってくる。


「ーーいいよ。もし、悠が私のことをもう一度好きになってくれたら。……そんな約束なら、またいつでもできるから」


自然に顔が綻んだ。少し前までは、なんで悠の記憶が戻らないのだろう、どうして私のことだけ、なんでこんなことに……とばかり、考えていたけれど。

どんな悠だって、私は大好きなんだ。だからひたすら彼を信じればいいんだ。

私のその想いは、まるで深く根を張った丈夫な大樹のように、まったく揺らぐ気はしなかった。

悠はもう、何言わなかった。長い間、俯いたまま無言を貫き通す。ーーどう思われたのだろう。

しつこいって、嫌われてしまったかもしれない。まあ、もう来ないでって言われたくせに、ノコノコきて、ずっと待ってるなんて言って。

うざがられても無理はないかもしれないなあ。

だけど、私はもうそうすることしかできないんだ。悠を信頼してただ待つことしか。諦めることは、私のすべてが拒否しているから。


「またね、悠」


そう言うと、私は踵を返して病室から出ようとした。

退出直前、「ーーまた」と言う悠の声が聞こえた気がしたので振り返ったけれど、彼は相変わらず俯いたままだったので、私はそのまま病室をあとにした。
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