何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
「う、うん。……ありがとう」


2人に指輪の事を言われ、改めて切なさが心に宿る。すると私が表情を曇らせてしまったせいで、詩織が何かを察したようだった。


「もしかしてこれ。中井くんにもらったの?」


詩織の隣にいた加奈ちゃんがはっとしたような顔をした。


「ーーうん」


私はバツ悪く笑った。常に私と悠のことを心配してくれている2人は、ほとんどの事情を知っている。

最近悠に拒絶されたことは、さすがに言えなかったけれど。


「まだ……記憶戻る気配、全然無い……?」


恐る恐る尋ねてきた詩織に、私はコクリと頷いた。


「ーーそっか。早く戻るといいね」

「うん……」

「ほんとだよ。こんな可愛い指輪まで桜っちにプレゼントしたくせにさあ」


しんみり言う私と詩織の横で、加奈ちゃんがブー垂れる。するとそれに触発されたらしい詩織も顔をしかめて、冗談交じりに悠への非難を始める。


「ほんとそれ! こんな婚約指輪まであげといて、忘れるとか、ないわー!」

「うんうん! 責任取ってよ!」

「ほんとだよっ。記憶とかどうでもいいから、もう何がなんでも結婚してもらわないとだよー!」


婚約指輪だの結婚だの、2人の話が飛躍しすぎていて、私は「いやあ……」と、曖昧に言葉を濁す。
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