何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
ーーでも、あの時悠も言ってたんだよなあ。

婚約指輪みたいだねって。いつか本物をあげるって。ーーずっと、一緒にいようって。

だけど、今日の悠はこう言っていた。


『折原さんと交わした約束ってやつも、その指輪のことも……。やっぱり俺には、なんのことなのかわからないんだ』


って。

ーーん?

待って。ちょっと、それってどういうこと?

悠は私に関することは何も覚えていないと言っていたはず。何一つ、私に関することの記憶は抜け落ちているって。

ーーそれならどうして。

彼はこの指輪が、自分も関係しているものだと思ったのだろう。

その指輪のことは覚えていない、と悠は今日言ったのだ。それは、彼が指輪の記憶を失っていると、思っているということ。

私は記憶をなくしてからの悠に、この指輪が悠に貰ったものだと言ったことは一度無い。


「ん。どうしたの……? 桜」


急に考え込みだした私に気づいた詩織が、心配そうに私を見てきたので、はっとして咄嗟に笑顔を作った。


「え? なんでもないよ。ーーそろそろ勉強の続きしよっかな」

「そう? うん、それじゃがんばろー!」

「桜っちの赤点回避のために!」


そしてその後二人と一緒に、テストのポイントだけなんとか覚えた私だったけれど。

悠の指輪の記憶に関してが、どうしても引っかかった。ある仮説すら、頭をよぎる。

ーーもしかして。もしかして悠は。

悠の記憶は、もうすでにーー。
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