何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
眠る時間も増えたし、ご飯の量は変えていないのに徐々に丸くなってきている。


「ダイエットしたほうがいいのかなあ」


恐らく言葉を理解していないトラ子は、私に頭を撫でられて機嫌よくゴロゴロと喉を鳴らした。

ーー私ももう23歳になった。大学を今年の春に卒業し、現在はIT企業の総務で働いている。

就職と同時に、私はワンルームのアパートを借りて一人暮らしを始めた。

実家にいるとお母さんの美味しい料理と手の行き届いた掃除・洗濯に甘えて、いつまでも自立できなそうだったから。

まあ、アパートは実家の近くに位置しているから、週末や早く仕事後終わった日は、しょっちゅうお母さんの手料理を食べに行ってしまうんだけどね。

あと、私が一人暮らしを始めたのはもう1つ理由があった。

トラ子を中井家から引き取りたかったのだ。ペット可の賃貸物件はなかなか見つからなくて、大変だったけれど、なんとか手頃な物件を借りられた。

だって、トラ子は私と悠を引き合わせてくれた、いわゆるキューピットだったから。だから私はトラ子と一緒に過ごしたかったんだ。

事情を話したら、中井家の人々は二つ返事で私にトラ子を託してくれた。


「ーーそろそろ行こうかな。行ってくるね、トラ子」


トラ子は「にゃん」と短く返事をした。私はその小さな頭を一撫ですると、自宅をあとにした。
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