何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
11歳になった最近では、病院ですれ違っても「あ、こんにちは」なんて、最低限の挨拶をしてくるくらいだ。

その成長は寂しくもあったけれど、嬉しくもあった。

実くんが、お兄ちゃんの渉くんと2人で、お母さんを支えようとしているのが分かったから。ーー私に母親の面影を求めることは、なくなったのだ。

ちなみに渉くんとは、親しい人に同じ病気の人がいる者同士として、仲良くやっていた。

7年前の告白を断って以来、彼は私に恋愛感情を抱いている素振りは見せなかった。本心は分からないけれど。

でも、ともすれば折れそうな瞬間もあった私を誘惑しない彼は、誠実だったと思う。

ーーまあ、単に私への恋心をあっさり払拭したのかもしれないけどね。


「あ、そういえば今日うちのお母さん来るんだった」

「そうなんだ」


悠の叔母である美香のお母さんは、たまにここに見舞いにやってくる。今日がその日だったらしい。


「もうすぐ来ると思うから、受付まで迎えに行ってくるね、私」
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