何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
「うん、行ってらっしゃい」


美香が退室し、私はふぅと一息つくと、悠のベッド横に置かれていた丸椅子に座った。

悠の寝顔をじっと見る。ーー白く美しい肌に、羨ましいくらい長いまつ毛。さすがにこけた頬は不健康さを醸し出しているけれど、それでも美形なことに変わりはない。


「相変わらずかっこいいねえ、悠」


眠り王子に、おどけたように私は言う。彼が眠る前に約束した通り、こうやってよく話しかけていた。

もちろん、悠からの反応はないけれど。

だけどなんとなく、聞いてくれているような気がしたので、私は全然飽きずに彼に話しかけ続けることが出来た。


「そろそろさあ、起きてもいいんじゃない? 7年経ったですけどねえ」


冗談っぽく、しかし心からの懇願を込めて言う。来る度に、同じことを言っている気がする。

そしてこんな台詞を私が言う時は、少し金属パーツの部分が茶色くなってきたガラスドームの桜の指輪を、思わず触ってしまうのだ。

ずっと一緒にいよう、と違った約束の証を。

ーーまあ。こんなこと言っても、そう簡単に起きるわけ……。


「ーーえ」


悠のまぶたがピクリと動いた気がしたので、私は目をゴシゴシと擦った。そしてもう一度目を見開いて、悠の目元を確認する。
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