何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
ーー別に動いてないじゃん。なんだ。気のせいか。

しかし、そう思った直後。

再び悠のまぶたが震えた。ぴくぴくと、小刻みに、何度も。私は驚愕しながらも、目を凝らして彼の瞳を見つめる。

ーーすると。


「悠……!?」


彼の瞳が、ゆっくりと開かれた。瞳孔は定まっていないようで、彼の大きな黒目は虚ろな光を宿している。


「悠!」


私は彼の瞳に自分の顔が入る位置まで接近し、泣きそうになった瞳をかれにぶつける。

すると彼はゆっくりと数回瞬きしたあと、黒目に生命力を宿した。そして、私に視点を合わせたようだった。

ーー悠が。私の大好きな、悠が。

目を覚ました。ひなげしの魔法が、解けたんだ。

私は慌ててナースコールを押した。すぐに「どうなさいましたー?」と看護師さんの声が聞こえてきたので、


「す、すいません! ゆ、悠が! 悠が! 起きましたっ」


と、慌てて言う。ナースコールのスピーカーの奥から、ひどくざわめく音が聞こえてきたけれど、今の私にはそれはどうでもいい。

ーー悠の唇が少し震えた。何かを言おうとしているようだけど、唇も声帯も上手く動かないようだ。まあ、7年も動かしていないんだから当たり前だ。
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