何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
いつもギリギリに来るか、来ていたとしても友人とだべっていて席にいないことが多いのに。

彼は私が来たことに気づくと、何故かきまり悪そうな顔をした。


「おはよー、折原さん。あのさー、トラ子のことなんだけど」


私が挨拶を返す前に、矢継ぎ早にトラ子のことを話し出す中井くん。

何か進展があったのだろうか。席に着いた私は、彼の方に少し身を乗り出した。


「うん、どうだった……!?」

「それが……ごめん。うちさ、昔猫飼ってて死んじゃったって話したじゃん」

「うん」

「その時、親父がすごく悲しかったらしくて。あんな思いは二度としたくないから、もう飼いたくないって言われちゃったんだよね」

「え……」


想像していなかった展開に、私は酷く落胆する。昨日の調子だと、十中八九中井くんの家がトラ子を引き取ってくれると思っていたからだ。


「ごめんねー。期待させたくせに、こんな結果になってさ」


申し訳なさそうに中井くんが言う。謝る必要は無い。結果がどうあれ、協力してくれて嬉しかった。


「ーー別にいいよ」


しかし、トラ子の貰い手探しが振り出しに戻ったショックかは、私は暗い声で言ってしまった。

なんで気の利いた事を言えないんだろう。まったく私という奴は。

だけどそんな私にも、中井くんはいつもの様に気にした様子はなかった。
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