何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。

私がそんなことを固く決意していると、元気そうな男の子の声が公園に響いた。

声の主は、パタパタと私の元へと駆け寄ってくる。かわいらしい幼稚園の制服の裾をはためかせながら。


「実くん! おはよー!」


やってきたのは、私がこの街に越してきてから、打ち解けられた貴重な人間の1人……いや、2人だ。


「ーーおはよう、桜」

「うん、おはよう」


渉くんのあとをゆっくりと歩きながら追ってきた、長身でやたら美形な男の子に、私は軽く会釈をする。

実くんの兄で、私より一つ年上らしい渉くんだ。

彼らはこの近所に住んでいるらしい。実くんを朝幼稚園に送るのが、登校前の渉くんの日課で、彼らは毎日ここの公園を通る。

ある日、トラ子と戯れていた私に、実くんが食いついてきたのが、顔見知りになったきっかけだ。


「トラ子ー、ふあふあー」


実くんがトラ子の背中を撫でる。トラ子は目を細めて気持ちよさそうに身を任せた。

小さい子は力加減がわからず、動物の機嫌を損ねてしまうことが多いのに、私の教えもあってか、実くんはトラ子の扱い方をそれなりに心得ていた。


「いつも朝早くから偉いね」

「偉い……? え、でも好きでやってるんだけだし、私……」
< 5 / 256 >

この作品をシェア

pagetop