何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
私がそんなことを固く決意していると、元気そうな男の子の声が公園に響いた。
声の主は、パタパタと私の元へと駆け寄ってくる。かわいらしい幼稚園の制服の裾をはためかせながら。
「実くん! おはよー!」
やってきたのは、私がこの街に越してきてから、打ち解けられた貴重な人間の1人……いや、2人だ。
「ーーおはよう、桜」
「うん、おはよう」
渉くんのあとをゆっくりと歩きながら追ってきた、長身でやたら美形な男の子に、私は軽く会釈をする。
実くんの兄で、私より一つ年上らしい渉くんだ。
彼らはこの近所に住んでいるらしい。実くんを朝幼稚園に送るのが、登校前の渉くんの日課で、彼らは毎日ここの公園を通る。
ある日、トラ子と戯れていた私に、実くんが食いついてきたのが、顔見知りになったきっかけだ。
「トラ子ー、ふあふあー」
実くんがトラ子の背中を撫でる。トラ子は目を細めて気持ちよさそうに身を任せた。
小さい子は力加減がわからず、動物の機嫌を損ねてしまうことが多いのに、私の教えもあってか、実くんはトラ子の扱い方をそれなりに心得ていた。
「いつも朝早くから偉いね」
「偉い……? え、でも好きでやってるんだけだし、私……」