何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
確かに私には大きめだった。私の身長は165cmで、女子にしては大きいほうだろうけど、目算で180cm近くある中井くんの服はさすがにぶかぶかだ。

まあ、それでもオーバーサイズの服をおしゃれで着てると見えなくもないか……と、洗面所の鏡を見て私は思った。

パーカーからはほのかにフレグランスのような香りがした。柔軟剤の匂いか何かだろう。ーー中井くんの匂い。

中井くんが普段着ているパーカーを、今は私が着ている。普段は中井くんの体を包んでいるもの。

そう考えた瞬間、何故か私の心臓の鼓動の音が大きくなった気がした。

ーーとりあえずリビングに戻らなきゃ。

何回か深呼吸して、気持ちを無理やり落ち着かせると、私は洗面所から中井くんのいるリビングに戻った。


「あ……ありがとう。やっぱりちょっと大きいけど、これで大丈夫そう」


手の平の半分ほどを隠してしまった袖をもたつかせながら、私は少し照れながら言う。ーーすると。

中井くんはなぜか虚をつかれたような顔をして私を見ると、ふいっと顔を逸らした。


「……その着方、犯罪くさいわ」


そしてぼそりと、何やら物騒なことを言う。


「え? 犯罪……?」

「あ……ごめんなさい。なんでもないっす、はい」
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