何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
逸らしていた顔を元に戻して私を見ると、はにかんだように笑って言う。少し顔が赤く見えるのは、なんでだろう。

そしてテレビの下のレコーダーのデジタル時計が目に入ってきた。19:47。

そろそろ帰らないと。連絡しているとはいえ、お母さんが心配する。


「中井くん、今日は本当にいろいろありがとう。トラ子のことも助けてくれて、服まで貸してくれて」

「あ、もう帰るの? もうすぐ母さんが帰ってくるんだ。夕飯は作ってあるはずだから、一緒に食べていけば?」

「あ……ありがとう。でもたぶん、うちのお母さん晩御飯準備して待ってるから…...」


中井くんのおうちで、一緒に晩御飯。心からご一緒したかったけれど、お母さんの料理を無駄にする訳には行かなかった。


「ーーそっか」


そう言った中井くんの顔が少し残念そうに見えたのは、私の希望的観測だろうか。


「うん。いろちろ、ありがとう。ーーまたね」


後ろ髪を引かれる想いがあったが、私は踵を返して、リビングから出ようとした。ーーしかし。


「ごめん、待って」


ダボダボのパーカーの袖を、中井くんに引かれた。私は思わず立ち止まる。


「ーーえ」

「あのさ……俺」
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