何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
「……あっ! ごめん」


腕の中で固まっている私に気づいた中井くんは、慌てた様子で私を解放した。


「つい……嬉しくて。嬉し、すぎて」

「ーーうん」


はにかみながら言う中井くんに、私は頷く。

別に、嫌で硬直していたわけじゃないのに。ーー嫌どころか、嬉しかったのに。ちょっと心臓がドキドキしすぎて、動けなくなっただけだ。

なんてこと、恥ずかしくて言えないけど。

照れくさくて視線を落としたら、再び時計の数値が見えた。20:02という表示に、私は慌てる。


「ご、ごめん中井くん! 私帰らなきゃ……」

「あ、そうだね。ーーこっちこそごめんね。帰り際に引き止めちゃって」

「ーーううん」


謝るなんてとんでもない。こんな嬉しいことを言われるなんて。時間なんて忘れて、ずっと一緒にいたいくらいだ。

もちろん、そんなわけにはいかないけれど。中井くんのご家族も、そろそろ帰ってくるようだし。


「ーーそれじゃあ、またね。中井くん」


私は照れながらも微笑む。すると中井くんも、頬を少し赤くしながらも、笑って私を見つめた。


「うん。ーー折原さん」

「……はい」

「これから、よろしく……です」

「よ、よろしくお願いします……!」


真っ直ぐに私を見て行った中井くんの言葉に、私は込み上げてくる嬉しさを噛み締めながら、深く頷いたのだった。
< 84 / 256 >

この作品をシェア

pagetop