何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
「あれ、なんか折原さんめっちゃニヤニヤしてない? 」

「えっ!?」


あまりにも嬉しかったためか、自然に表情が緩んでしまっていたらしい。中井くんに指摘され、私は慌てた。


「べ、別にしてないよっ!?」


そして言ったあと少しの後悔。

ここで、「嬉しすぎて、ニヤニヤしちゃった」って素直に言った方が、可愛げのある女の子なんじゃないかな。

なんで私はそれができないんだろ。


「そうー? そう見えたからさ」

「う、うん」

「まあ、俺は嬉しくてにやけちゃいそうだけどね」


さらっと中井くんは言ってのける。

ーーなんて素直でかっこいいんだろう。そして私に嬉しさを与えてくれる内容の発言。

私そう言えば、中井くんに好きだと言われた時ですら、自分の想いを言えていない。

私も中井くんが好きだよって。

恥ずかしがってないで、言わないと。中井くんは、ちゃんとまっすぐに私に心をぶつけてくれているのだから。

しかしそんなことを考えているうちに、私達は駅へと到着してしまった。


「それじゃ、明後日ね! ヤバい、めっちゃ楽しみだわー」

「ーーうん」

「んじゃ、また!」


そう言うと中井くんは、満面の笑みを浮かべ流れ私に手を振り、踵を返して私に背を向けた。

ーーちゃんと、言わなきゃ。自分の気持ちを、素直に。

私は遠ざかっていく中井くんの背中を眺めながら、決意を固めた。
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