何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。



「桜は背が高いから、おはしょりが短くなっちゃうわねえ」

「おはしょりって何?」


聞き慣れない言葉を言ったお母さんに、私は尋ねる。


「浴衣の着丈を調節するために、腰の辺りで少し折らなきゃいけないの。それがおはしょり。短すぎても長すぎてもかっこ悪いのよ。……腰紐の位置を下げればなんとかなりそうねえ」

「ふーん……」


分かったような分かんないような。まあ浴衣の着付けの仕方なんてまったく知らないから、お母さんに任せておけば大丈夫だろう。

待ちに待った中井くんとの花火大会、当日。待ち合わせ時間の1時間前、私は自宅でお母さんに浴衣を着付けてもらっていた。

お母さんのお下がりの浴衣は、紺を基調としていて、全体に桜の花と花弁が散りばめられている、大人っぽいけど華やかさもあるデザインのものだ。

花火大会に友達と行く、と告げたらお母さんがクローゼットから出してくれたのだけれど、一目布地を見た瞬間、私は気に入ってしまった。

柄が可愛い上に、私の名前にもなっている花がメインの浴衣。これを着て中井くんと出かけられるなんて、考えただけでもうきうきしてしまう。
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