何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。
「はい、でーきた」


着付けもヘアセットもお母さんに任せ、小一時間されるがままだった私。

すべてを完了させたお母さんに肩をぽんっと叩かれて、私はリビングの隅に立て掛けられている姿見に全身を映した。

初めて見る、きちんと浴衣を着た自分。


「お母さん……ありがとう」


見た瞬間自然と口から出たのは、心からのお母さんへの感謝の言葉だった。

それほどまでに、浴衣姿の私は清廉そうな美しさを放っていた。ーー自分で言うのも、なんだけど。

サイドが編み込まれ、1つにまとめられたヘアスタイルは、普段は不機嫌そうな私の顔つきを、涼し気な印象にしてくれていた。

そして透き通った赤色のとんぼ玉のついたかんざしが斜めに刺さっており、それがアクセントになって華美な雰囲気も醸し出してくれている。

桜がモチーフの浴衣は、丈も裾も、しっくりいく長さに調整され、まるで私の体に合わせて縫い合わされたんじゃないかと思えるほど、私にはまっていた。

たぶん、ただ適当に着付けただけじゃこんな風にはならないだろう。

私をよく知っているお母さんが、私が1番綺麗に見える着付けと、ヘアスタイルにしてくれたのが、一目でわかる。


「えへへー。人に着付けするなんて久しぶりだったからちょっと不安だったけどねー。うまいもんでしょ?」

「うん……! 本当にすごい! かわいくしてくれてありがとう!」
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