純真~こじらせ初恋の攻略法~
席を立って藤瀬くんのデスクに回ると、彼は腕組をして椅子ごと私と向き合った。

「どうしたんですか?」

小首をかしげてそう聞いてみると、「それはこっちのセリフだ」と不機嫌そうにそう言った。

せっかく最近はいい関係性を築き上げていて、この不機嫌そうな顔はしばらく見ていなかったというのに。

不機嫌の原因がわからなくては対処のしようもないというものだ。

「藤瀬さんの怖い顔の理由がわからないんですけど」

仕事は二人で確認して完璧に仕上げたし、新しい案件まではまだ余裕があるが事前準備はしっかりとやっている。

他にミスした覚えもないし、プライベートでは悲しいほどに接点がないので何があるわけでもない。

彼の眉間のシワが何を物語っているのか、私にはさっぱりわからないのだ。

「井手口部長に出張のこと聞いた」

「ああ、そうなんですか。藤瀬さんの仕事が一段落したから、代理アシとして行くことになりました」

出張のことで機嫌が悪いの?

その意図がわからなくて、私は頭の中で藤瀬くんの仕事のスケジュールを整理した。

「日帰りということなんですけど、何か急ぎがありました?」

私が忘れている仕事があって藤瀬くんが不機嫌になっている可能性もあるのでは、と恐る恐る聞いてみた。

「別に何にもないけど」

ぶすっとして呟く藤瀬くんの表情が、拗ねているように見えるのは気のせいだろうか。

「仕事だから問題はないと思うけどさ。湯川さんには十分に気を付けろよ?あの人、仕事はそこそこできるけど、女口説くことに関しては命懸けだからな」

……気のせいだと思っていたけれど、もしかして本当に拗ねているんだろうか?
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