純真～こじらせ初恋の攻略法～
出張当日は朝から雨が降っていた。

まるで私の不安を表しているような雨が、空港の大きな窓ガラスを打つ。

直接空港で待ち合わせをした私と湯川さんは、ロビーで搭乗手続きを待ってた。

「大阪は大雨だって言ってたけど大丈夫かなぁ」

心配そうな口調でそう言う湯川さんの表情は、さっきから緩んでいるのが垣間見えて少し腹ただしい。

「飛行機はちゃんと飛ぶわけですから、問題ないんじゃないですか？」

私がついつい湯川さんに冷たく当たってしまうのは、なにも『生理的に無理だから』という理由だけではない。

一昨日藤瀬くんに言われた、『危機管理』という言葉を、ちゃんと心に刻み込んだからに他ならない。

仕事のことでは藤瀬くんの次に評判のいい湯川さんだが、私の気持ちを知っている美海さんにも、十分に気を付けるにこしたことはないとアドバイスをもらっていたのだ。

「橘さんはいつも俺だけにクール対応じゃない？」

「そんなことはないですよ。湯川さんの気のせいです」

ヘラっと笑ってそう言ったけれど、気まずくなってしまってサッと視線を逸らした。

しかしそんな私の気持ちなどお構いなしに、気をよくした湯川さんは私に容赦なくずっと話しかけてくる。

それは搭乗するまでどころか機内でも続いた。

さすがに限界を感じた私は、「すみません。最後にもう一度資料の確認をしたいので」と言って、湯川地獄から解放してもらった。

関空に到着したのは午前10時半過ぎ。

降り立った大阪の空はどんよりと暗く、低くて黒い雲の間を縫って降る雨は、朝より酷くなったような気がする。

丸一日湯川さんと一緒であることに、どうしても憂鬱さは隠しきれない。

けれども仕事自体はさすが他課合同で取り掛かるだけあって、簡単ながらもセンスが問われる面白い仕事だ。

私は頭を今日の仕事用にシフトチェンジした。

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