純真~こじらせ初恋の攻略法~
代理アシということもあり、取引先が近づくにつれて緊張してくる。

できる限りの予習復習はしたつもりだが、やはり咄嗟のことに対応できるのかが不安だ。

しかし受付をすませて応接室に通されると、開き直りとでもいうのだろうか。

嘘のように落ち着きを取り戻した。

暫くすると五十代と思しき男性二人と、私と変わらないくらいであろう自女性が二人、応接室に入ってきた。

「いやぁ、待たせてすまんね、湯川さん」

そう言いながら小太りの男性が湯川さんに握手を求めてくる。

「お時間いただけて嬉しいです」

ガッシリと手を握り合うと、フレンドリーな会話が始まった。

「これまたべっぴんさん連れとるやないの」

「そうでしょ?僕のアシスタントの橘です」

いやいや、私がいつ湯川さんのアシスタントになったというのだろう。

「ご挨拶が遅れました。橘と申します」

臨時の、と言わなかったのは、臨時のアシスタントを相手がどうとるかが不安だったからだ。

昔言われたことがあるのだ。

『臨時の人間を連れてくるなんて失礼じゃないか。その程度の比重で仕事をしているのか』と。

「あれ?いつもの電話の声と違わへん?」

小柄な男性の方がそう言うと、湯川さんはあっさりと「そうなんです」と笑って言った。

「いつものアシが急病で来れなくなってしまったんです。そこで優秀な橘さんに動向をお願いした、というわけなんです」

「そら大変やったなぁ」

「いやいや、おかげで僕は橘さんと同行できてうれしい限りなんですけどね」

「ひょっとして湯川さんは橘さん狙ってんのとちゃう?」

恐ろしい指摘を受けて、私はどんな表情をしていいものなのかわからない。

「あ、やっぱりわかっちゃいます?」

ハハッと笑うと男性二人も爆笑とばかりに戸を叩いて大笑いする。

屈託のない笑顔で相手の懐に飛び込める当たりは、湯川さんの優れたコミュニケーション力の高さをうかがわせる。

その後はさすが大阪というべきか。

ノリもテンポもいい打ち合わせは、笑いの渦の中スムーズに行われた。
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