純真~こじらせ初恋の攻略法~
用意周到に根回ししていた湯川さんを他所に、私は何も知らずに仲良くなった取引先の女性社員と楽しく談笑していたなんて。

食事前から知っていたなら、飛行機を振り返ることも可能だったかもしれない。

少なくとも欠航がわかった時点で一言相談してくれていたら、何かしらの策くらい思いつくものなのに。

「食事会が何時に終わるかわからないからさ。振り替えられなかったんだよ」

「最終便に合わせて振り返ることくらいできたんじゃないですか?」

「ちょうどいい時間がなくてね」

「…………」

そんなわけないじゃないか。

そう言い返したかったけれど、私はもう口を噤んだ。

きっと湯川さんは私が何を言っても理由をつけて返してくるに違いない。

それにもう、変える術はないのだから。

急な泊まりになってしまったので、着替えも下着も化粧品も、何もない。

メイク直しに必要な道具しか持ってきていないのだ。

ずる賢いことは考えて率先して動くくせに、こういう所は何一つ考えが及ばない残念な湯川さんは、コンビニに寄ることすら提案してくれない。

自分から頼もうかとも思ったけれど、もう話しかけるのさえも嫌だった。

タクシーが目的地に着くまで、私は湯川さんが何を言ってきても相槌しか打たなかった。

そしてこの後私は、湯川さんを死ぬほど嫌いになるのだ。
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