純真~こじらせ初恋の攻略法~
自分が受付に行ってくると言うので、私はロビーで待つことにした。

結局買い物は行けずじまいだったけれど、幸い持ち合わせのコスメでもまともなメイクはできる。

ちゃんとしたビジネスホテルだし、最低限度のスキンケアくらいはできるだろう。

ここまで来てしまえば腹をくくるしかない。

深い溜め息をついたとき、湯川さんがいそいそと戻ってきた。

「橘さんお待たせ。はい、鍵」

そう言ってカードキーを渡された。

「ありがとうございます」

「じゃ、行こう」

促されてエレベーターに乗り込んだが、気持ちは4階くらいなら階段で上がりたい、と思うほど同じ空間にいたくなかった。

カードキーの番号は403号室。

私はエレベーターを降りて部屋番号を確認すると、手早くカードキーを差し込みドアを開けた。

これでようやく湯川さんの顔を見ることなく落ち着ける。

ほっと一息ついて部屋へと足を踏み入れ「それじゃ……」と湯川さんに挨拶をしようと振り返ると。

私の後ろには既に湯川さんの姿はなく。

あろうことか私の横を通り過ぎて部屋に入って来たではないか。

「ちょ……ちょっと!何してるんですかっ!早く出てってください!」

スーツの腕部分を掴み、湯川さんの進行を止めるが、彼は私の制止を押し切ってずかずかと中へ入って行く。

「へぇ。思ったよりもいい部屋だね」

室内は少し広めのツインで、確かに通常よりも綺麗で落ち着ける空間になっていると言える。

しかしそれはあくまで一人、もしくは他の人といる場合は、だ。

「湯川さん、いい加減にしてください。早く出て行って」

強い口調でそう言ったのだが、湯川さんは一向に気にしない様子で「無理だよ」と笑った。

「だってここは橘さんと俺の部屋だからね」

「はっ!?」

湯川さんのありえない発言に、私は愕然とした。
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