純真~こじらせ初恋の攻略法~
しかし頭でどんなに冷静さを装うと頑張ったところで、心はもう傷付く覚悟をしている。

「仕事……行く準備しなきゃ」

自分から離れようとはしないくせに、もっともらしいことを言うなんて。

相手任せにしてしまうところが、私のダメなところだ。

覚悟を決めたのならば、自分から行動しなければ大きな変革は得られはしないのに。

「仕事で泊りになってるんだから、昼過ぎの出勤でいいって井手口部長は言ってたぞ」

「でも、藤瀬くんの仕事は詰まってるでしょ?私は藤瀬くんのアシスタントなんだから……」

藤瀬くんが取引先に行くのなら、アシである私も同行しなければ。

今の私にとっては、それこそ建前なのだけれど。

「本当のこと言うと、昨日は気が気じゃなくて、殆ど寝れずに仕事してたんだ。おかげで驚くほど捗ったよ。だから朝一外出はしなくてよかったんだよね」

朝一の外出は必要ないのに、朝一にうちに来てくれたんだ。

藤瀬くんにとって私は、少しは特別な存在だと自惚れてもいいのかしら。

そう思って藤瀬くんを見上げると、彼は微かに目を見開き私の視線を真っ直ぐに受け止めた。

あ……私今……さっき考えていたような、あざとい表情してる……。

自分でそう気付いたときには、藤瀬くんの右手が私の左頬を包み込んでいた。

私の計算ではこの後……。

藤瀬くんの整った顔がゆっくりと近付いて、息がかかるまで距離が詰められる。

ここだと言わんばかりに僅かに唇を開くと、まるで吸い寄せられるかのように藤瀬くんの唇が合わさった。

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