純真～こじらせ初恋の攻略法～
「もしもし……」

スマホを耳に当て、小声でそう言った藤瀬くんだけれど。

『もしもし？』

藤瀬くんの小声も相手には関係ないようだ。

『もしもーし。やっと出てくれたぁ』

丸聞こえの電話の主。

私が予感していた通り、相手はやっぱり女性だったのか……。

「すみません、仕事中でして。改めてこちらからご連絡させていただきますので……」

口元に手をやり少しでも声を潜めるけれど、何せ私と藤瀬くんのデスクは真正面なのだ。

この静けさの中で聞こえないはずがない。

『仕事だっていえば私が引き下がると思ってるでしょ。駄目だからね。ちゃんとデートしてもらうから』

こんな聞きたくない会話も、否が応でも丸聞こえなのだから。

みぞおちのあたりがギュッと締め付けられて、なんだかとても息苦しい。

口を開けると黒い何かが零れ落ちそうな、そんな感覚に襲われた。

なんでこんな会話聞かされなくちゃいけないのよ。

自分が無理やり電話を取らせたくせに、理不尽な怒りで覆い尽くされてしまう。

言葉巧みに相手の攻撃をかわして電話を切った藤瀬くんだが、私の感情はもう数分前には戻れなかった。
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