純真~こじらせ初恋の攻略法~
なんの動揺もなく、飄々と仕事をこなしていく藤瀬くんになんだかとっても腹が立つ。

そりゃもちろん、わたわたと動揺されてしまったら、それは今の数倍腹が立つのだろうが。

「藤瀬さんにデートするような相手がいるなんて知りませんでした。まぁ知らなくてもいいことなんでしょうけど」

仕事モードの敬語が妙に冷たく聞こえる。

そりゃ冷たく言い放っているわけだから、当然のことなのだが。

「いや、だから違うって」

さすがに手を止めて、藤瀬くんは強めに否定する。

「別に隠さなくてもいいじゃないですか。女性の一人や二人、いて当たり前なんですから」

「そんな人いないんだから隠すも何もない。一それに一人だけならまだしも二人いちゃダメだろ」

「そりゃダメですけど」

でもそれじゃ、どうして私にキスしたんだろう。

そんな関係じゃなくてもキスしたり、それ以上のこともできちゃう人には思えないけれど。

「まぁ、人のことなんてわからないですからね」

いろいろと思うことがあると、ツンとそっぽを向いてしまった。

「……そう……だよな。確かに人のことなんてわからない」

急に藤瀬くんの声のトーンが低くなり、まるで呟くようにそう言った。

「どんなに相手の事をわかってると思っていても、どんなに信じていても、本当の気持ちは他人になんてわからないんだよな」

まるで自分に言い聞かせているかのような、そんな切ない言葉だった。
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