純真~こじらせ初恋の攻略法~
「あ、橘さん。ちゃんと来てくれたねー」
左に並んだパーテーションから大きな声でこちらに向かってきてくれたのは、私を面接してくれた井手口廉太郎(イデグチレンタロウ)部長だ。
身長は180センチといったところだろうか。
153センチと小柄な私にとっては見上げるほど大きく、スポーツでもやっていたかのようにガッチリとした体格の男性だ。
確か年齢は46歳だと面接のときに教えてもらった気がする。
ずいぶん若い部長だなと思ったが、少人数の実力社会ならばそれも頷ける。
「井手口部長。おはようございます。今日から宜しくお願いします」
「おはよう。橘さんには期待してるよ。大変なこともあるだろうけど、楽しく仕事をしてくれればいいからね」
「はい。頑張ります」
グッと力を込めて返事をすると、井手口部長はハハッと声を上げて笑った。
「そんなに力を入れなくていいよ。力を入れ過ぎて自分を追い込んでしまうと、いい仕事なんてできないものだよ。お客様に満足してもらうためには、まず自分が楽しまないとな」
ガチガチに力の入っていた私の肩を、井手口部長はポンポンと軽く叩いて優しく笑ってくれた 。
「橘さんのデスクはこっちだよ」
井手口部長に促され、私は左右にある二つの島のうち左奥の島に向かった。
「ここの席を使ってくれ」
「はい」
左の島には7つのデスクが向かい合わせに並んでいる。
一番端から2番目のデスクをもらい、私は自分の荷物を下の引き出しにしまった。
もうすぐここも社員で埋まる。
第一印象だけは絶対ににこやかに。
緊張で引き攣る頬を抑えてその時を待った。