純真~こじらせ初恋の攻略法~
出勤してきた男女の社員は、真っ直ぐこちらにやってくる。
この島に来るということは、間違いなくエースとアシだろう。
エースは大きくて重そうなカバンを私の前の席にどかりと置いた。
まじまじと彼の顔を見つめると、なんだか不思議な感覚に襲われた。
目を見張るような整った顔立ちにツヤのある黒髪。
少し冷たそうに感じる瞳が私を捉えた途端、一瞬見開いたように感じた。
何とも言えないこの感情は、どう表現したらいいんだろうか。
一目惚れで胸が高鳴った、などという感情とは違う、何かが湧き出そうな感覚。
その何かの名前などわかりもしないが、視線を外す事ができない。
「あんたが俺の新しいアシ?」
低い声が私の耳をくすぐった。
初めて聞く声なのに、なんだかずっと聞いていたかのような。
……私……変だ。
「違うのかよ」
そう言われてハッと我に返った私は、思わず「違いませんっ」と声を張ってしまった。
「今日からお世話になります、橘茉莉香です。宜しくお願いします」
並んでいる二人に自己紹介をして頭を下げる。
「よろしく」
不愛想なエースにチラリと視線を送り、隣にいたアシさんが私に微笑んでくれた。
「真鍋結花(マナベユイカ)です。始めは主に私との引継ぎ業務になると思います。宜しくお願いします」
とても優しそうな微笑みをする真鍋さんは、「井手口部長に報告してきます」と言ってその場を離れた。
この不思議な感覚のするエースさんのお名前は……教えてくれる気あるんだろうか?