純真~こじらせ初恋の攻略法~
勢いでスーツの胸に顔をうずめてしまい、私はパッと顔を上げた。

やっぱり……そこには藤瀬くんのしかめっ面があった。

「フラフラしてたら危ないだろ?転けて怪我でもしたらどうすんの」

深い溜め息をつきながら、藤瀬くんは私の腕をとって支えてくれた。

「だから俺が手を貸そうとしたんじゃないか」

湯川さんがむきになって藤瀬くんに突っかかると、彼はハハッと乾いたような笑いを漏らした。

「いきなり体に触れるとか、強引すぎますよ。下手したらドン引きされますって」

顔は笑っているのに、私の腕を掴んでいる手の力は笑えない。

「下心なんてないからね?」

慌てて否定する湯川さんに、「腰抱かれたら下心の塊だと思われても仕方ないですよ?もっと長期戦でいかないと」と藤瀬くんは釘を刺すように言った。

「私もそう思っちゃって怖かったです」

酔った勢いなのか、それとも藤瀬くんのダメ出しのおかげか、私も湯川さんに伝えることができた。

「ごめんね?橘さんを怖がらせるつもりはなかったんだけど……」

湯川さんは力なく私に謝罪をしてくれたのだが、すぐに「いや、ちょっと待ってよ」とその場を去ろうとしていた私と藤瀬くんを引き止めた。

「藤瀬のその手。それはいいわけ?」

わざわざ引き止めて余計な指摘をしないでいただきたい。

チラリと藤瀬くんを見上げると、彼も同じことを思ったのだろう。

私と目を合わせて眉を寄せた。

「え……。なに、そのアイコンタクト的なやつ。藤瀬、もしかしてお前ってば……」

何を言いたいのか、片手で口元を覆い、藤瀬くんを指さしながら湯川さんが騒ぐものだから、その場にいた社員人達の注目を浴びてしまった。
< 66 / 199 >

この作品をシェア

pagetop