純真~こじらせ初恋の攻略法~
ガチガチに緊張している私と対照的に、「はいはーい、どーぞー」と軽い口調で出てきたのは、ご依頼主の谷脇雅臣さん。

細身の長身で、パッと見イケメンと言わなくもないくらいには整った顔をしていらっしゃる。

だから女癖悪いわけね。

ふむふむ、と谷脇さんを観察している間に二人の挨拶は終わったようで、藤瀬くんが私の紹介をしようと振り向いた。

すかさず私は一歩前に出て、谷脇さんに名刺を差し出した。

「藤瀬のアシスタントをしております、橘茉莉香と申します。宜しくお願い致します」

頭を下げて挨拶させていただくと。

名刺を差し出している私の両手を、突然谷脇さんの大きな手が包んだ。

「橘さん。茉莉香さんね。こちらこそよろしく。堅苦しい挨拶は抜きにして、あがってあがって!」

包んだ手を引かれると、私は前のめりになる。

よろけそうになった私の肩に、谷脇さんは何とも自然に手を回して抱く。

ぐいぐいと強引に肩を引かれてリビングへと連れ込まれてしまった。

なんなんだ、この恐れを知らない強引さは。

相手に隙を作らせないことで、抵抗する時間すら与えないという作戦なのだろうか。

確かに肩を抱かれても、こんなに強引に引っ張りながら仕事のオーダーを話されると、『やめてください』の一言も言う暇がない。

恐るべし谷脇……。

かなりの策士と見える。
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