純真~こじらせ初恋の攻略法~
打ち合わせを開始しても。

「茉莉香さんはどう思う?」

「茉莉香さんのセンスでお願いしようかな」

「茉莉香さんがそう言うなら」

「茉莉香さんと二人で暮らすとしたらさ」

「こうしたら茉莉香さんもこの部屋に来てくれる?」

茉莉香……茉莉香……茉莉香……。

人の名前のバーゲンセールをしないで頂きたい。

そもそもなんでこの人は初対面の、しかも取引先のアシスタントの名前を、こうも気安く呼べるのだろうか。

「その件に関しましては藤瀬が……」

私はそうあしらうのが精一杯で、谷脇さんの馴れ馴れしさに苦言を呈す余裕もない。

初めはなんとか笑顔で対応していた藤瀬くんも、途中から表情が固くなることもあった。

さすがに私にばかり構いすぎる。

それでも藤瀬くんの話術のおかげで打ち合わせはスムーズに進み、次回までに案をまとめるということになった。

最後の最後まで私の手を握り、「待ってるからね」とプライベートの電話番号とSNSのIDを走り書きしたメモを私に手渡す。

私はもう気疲れでされるがままになってしまっていた。

玄関のドアがバタンと閉まるのと同時に、大きな溜め息をついたのは、私一人ではなかった。
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