純真~こじらせ初恋の攻略法~
案の定、車の中での会話は谷脇さんの自慢話ばかり。

正直言って大した話術もないくせに事柄を大きくして話すものだから、聞いているこっちはたまったものじゃない。

いくら想定内だったとはいえ、これでは軽い拷問だ。

しかしもっと辛かったのは連れてこられた先だった。

とても美味しいフレンチがあると自信満々に言っていたくせに、ここは誰でも知っている有名ホテルのレストランではないか。

ランチタイムはビュッフェ、ディナーはコース料理が有名なのだが、あまりにも有名どころ過ぎて……。

ランチは三度来たことがあるし、ディナーも一度来たことがある。

確かに味は美味しいので失敗ではないのだけれど、あれだけ豪語していたくせに誰もが知っている場所を選ぶあたり、谷脇さんの残念さが伺える。

しかもレディーファーストをしてくれるどころか、ホテルマンにもウエイターにも横柄な態度で、男性としてだけでなく人間としても有り得ない。

テーブルに置かれた最高のお料理には本当に申し訳ないが、谷脇さんと一緒では全く堪能できない。

こんな気持ちで食事をするなんて心苦しすぎる。

面白くもなんともない話を冷めた気持ちで聞き流しながら、最後のデザートとコーヒーを口に運んだ。

「このあとは上のバーに行こうか」

谷脇さんは、まるで私が付き合うのが当然とでも思っているような口調でそう言った。

「お食事だけというお約束でしたよね?」

「そういう話はしたけど、約束はしてない」

そこは開き直るところなのだろうか。

「バーに行かないなら部屋でもいいけど」

谷脇さんの思考があまりにも常識はずれであるために、私は何一つ理解できない。

言葉を失っている私に、谷脇さんは胸ポケットから出したカードキーのようなものを、指ではさんでちらつかせた。

「部屋、取ってあるから」

ここまで来ると本当に馬鹿だとしか言い様がない。
< 86 / 199 >

この作品をシェア

pagetop