純真~こじらせ初恋の攻略法~
この人の頭の中は一体どうなっているのだろう。

肩書きとお金さえ持っていれば、女は必然的に自分に惚れるとでも思っているのだろうか。

だとすれば大きな間違いだ。

「そろそろ行こうか」

「行きませんけど」

「は?」

当然ついてくると思っていたのか、私の即答に谷脇さんは驚きを隠せないようだ。

「バーにも、ましてやお部屋になんか行きません」

ここはあやふやに流すわけにはいかない。

断固として拒否しなければと、覚悟を持ってハッキリと答えた。

「今日はこれで失礼します。最終確認にはお伺いいたしますので、引き続き宜しくお願い致します」

膝の上に乗せていたナフキンを畳んでテーブルの上に乗せると、私は席を立って谷脇さんに一例して店を出た。

私の失礼な態度にどう対応していいかわからなかったのか、谷脇さんは固まったままだった。

なんとかうまく切り抜けられて良かった……。

私は深い溜め息をついてエレベーターのボタンを押した。

あのまま谷脇さんの強引さに負けてしまっていたらと考えるだけで身震いする。

これだから無駄に自信満々な男は嫌いなんだ。

ポンと音が響き、大きく開いたエレベーターに乗り込んで階数ボタンを押し閉ボタンを押すと、扉はゆっくりと閉まっていく。

後ろの壁に背を預けたとき、閉まりかけていたドアが再び開くと、姿を現したのは谷脇さんだった。

私は軽い恐怖を感じて、持っていたバッグを胸に抱き抱えると、私に前に立ちふさがった谷脇さんと対峙した。
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