純真~こじらせ初恋の攻略法~
藤瀬くんの圧に押されたのか、谷脇さんはしどろもどろになりながら言葉を続ける。

「あの二人には関係のないことだろ。余計なことするなよ」

きっと彼はなんとかこの場を穏便に切り抜けたいのだろう。

報告などされてしまっては大変なことになるに違いない。

それが藤瀬くんもわかっているからこそ、さらに谷脇さんを追い込むような言葉を投げかけるのだろう。

「そんなわけにはいきません。大切なお客様をご紹介いただいたというのに、不快な思いをさせてしまったとあっては、お二人にも顔向けできません。橘の失態は私の失態ですので、私の方からお二人にご説明させていただきます」

「いや……それはいいから……」

「とんでもありません。橘さん、明日の朝一番で会長にアポイントを取るように。俺も一緒に行って頭を下げるから、橘さんも自分の口から状況をきちんと説明するように。わかったな?」

「あ……はい……わかりました。申し訳ありません」

「だからもういいって言ってんだろ!」

藤瀬くんと私の小芝居に、谷脇さんは本気で危機感を感じたのかもしれない。

焦って声を張り上げるものだから、再び注目を集めてしまった。

「もういいから。そもそも食事だけって約束だったわけだし。別に橘さんが悪いわけでもないし。もういいだろ。あ、今度の納品後の確認書類は、わざわざ来てくれなくても郵送でいいから」

息つく間もなく言いたいことだけ言った谷脇さんは、さっと片手を挙げると逃げるようにそそくさと帰っていった。

私に背を向けたままの藤瀬くんは、肩で大きな息を吐き、「帰ろう」と短く告げるとそのままフロアを抜けて自動ドアへと向かった。

私も早足で彼を追いかけ、二人で外に出る。

「藤瀬さん。ありがとうございました。藤瀬さんがいなかったら、どうなっていたかって考えると……」

今頃ホテルの部屋にでも連れ込まれていたかもしれない。

それを思うと怖くてたまらない。

私は藤瀬くんの背中に向かってもう一度「本当にありがとうございました」と告げた。

すると藤瀬くんの歩みがぴたりと止まり、振り向きざまに向けられた視線は初めて見る冷たい視線だった。
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