絶対領域
泣く?叫ぶ?逃げる?
……私が?
ありえない。
王子様なんか最初からいないし、要らないよ。
自分の身は、自分で守る。
「確かに、さっき、私は言った。『何をされてもかまいません』と」
うるうる潤ませた瞳は、とうに乾いて。
不敵な影を帯び、ぎらつき始める。
きゅっと胸元で合わせていた両手で、拳を作る。
それぞれにせーちゃんとあず兄の熱を、秘めながら。
「ただし、私に何かできるのなら、ね」
肩にかかる、ミルクティー色の長い髪を払い、なびかせる。
口の端を片方だけ持ち上げた。
私を取り囲んでいるガラの悪い連中は、気弱な少女からガラリと雰囲気を変えた私に、少なからず動揺している。
先ほど私の顎を掴んだ不良は、狼狽を必死に隠しながら、ハッと鼻で笑った。
「さっきの軟弱な女より、強がってる女のほうが泣かせ甲斐があるぜ!」
「そのえらぶった態度、いつまで持つかな」
――さあ、夕闇を迎える前に、軽く遊んであげようか。