絶対領域
「なに?喧嘩?」
「うわ、イケメンじゃん」
「修羅場じゃない?」
ここが繁華街の大通りだということを、すっかり忘れていた。
ざわつく周りから視線を浴びる。
いつもの俺なら、ここで我に返り、平静に戻れる。
……だけど。
今日の俺には、無理だ。
「あずき兄さんだって、全然落ち着けてねぇじゃんか」
肩を掴む手を、力づくでどかす。
八つ当たりするみたいに、嘲った。
「俺は、もう、嫌なんだよ」
あずき兄さんの表情は、苦味をかみ殺しているように歪んでいた。
たぶん、俺の表情も、おんなじなんだろうな。
嘲っているのは、あずき兄さんでもガラの悪い連中でもなくて、自分自身にだ。
「姉ちゃんと再会した時、姉ちゃんが傷だらけになってるのは」
もう二度と見たくない。
俺のいないところで、傷を負ってほしくない。
それなのに、姉ちゃんは俺を遠ざけて、孤独になろうとする。