絶対領域
ほらな。
あずき兄さんも、余裕あるフリして、余裕なんかどこにもない。
「……でも、それじゃダメなんだ」
「え?」
怒りでいっぱいだった拳が、だんだんと緩められていく。
ゆっくり持ち上がっていく眼差しで、俺を捉えた。
「あいつは強情だからな。あいつが『大丈夫』『信じて』って言っちまったら、俺たちがどれだけ反対しても聞く耳を持たねぇ」
俺たちが、姉ちゃんを守りたいと思ってるように。
姉ちゃんも、俺たちを守りたいと思ってくれてる。
それが、とても嬉しくて、歯がゆい。
「それなら、仲間と一緒に急いであいつのところに戻って、あいつを叱るべきだろ?独りでなんとかしようとするな、ってな」
あずき兄さんは俺を見て、笑った。
その笑顔は今まで見た中で一番ぎこちなくて、下手くそだった。