絶対領域
彼の手が、悠然とこちらに伸びてくる。
ポン、ポン、と数回。
頭を撫でるこの手は、想像よりもずっと温かい。
「あなたの名前は……?」
聞くのが遅いかもしれない。
けれど、今更だって、質問せずにはいられなかった。
「思い出してごらん」
彼は頭を撫でるのをやめて、口の端をほころばせた。
「君も、全部知ってる。俺のことも、彼のことも、3日前の出来事も全部」
優しいのに、切なそうで。
今度は私が、彼の頭を撫でたくなった。
「……それで?」
伸ばしかけた手が、ピタリと静止する。
「どうする?」
ぎゅっと拳を作って、強く握りしめた。
黒髪の男の子の元へ、行くか、行かないか。
答えは、決まってる。
「行く!」
会いに行かなきゃ、何も始まらない気がした。