絶対領域
・紫side
誰が見ても、勝機はこちらにあった。
なのに、どうして。
こうなってしまったんだろう。
「危ないっ!逃げて……!!」
らしくなく枯れ果てた警告を機に、翠くんが走り出す。
が、
「その女を捕まえろ!」
突如現れた女子高生を翠くんが保護するより先に、リーダーらしき男が指示を出した。
咄嗟に、敵が一人、背後から女子高生の首に腕を回す。
「ひっ……!」
「おっと、声出すんじゃねぇぞ」
「んんっ!!」
「殺されたくなきゃ黙ってろ」
口を手で塞がれた挙句、片手に持っていたナイフで脅され、女子高生は顔面蒼白になり戦慄する。
あの女の子……さっき萌奈さんのことを「矢浦さん」と呼んでいた。
萌奈さんの動揺からも察するに、きっと、知り合いなんだ。
一般人というだけでなく、萌奈さんの知り合いを、新人いびりに巻き込んでしまった。
どうしよう。
どうしたらいいんだろう。
僕は、どうすべきなんだろう。
「あっはははは!!」
耳障りな高笑いが、反響する。
赤から青へ、色を変えた信号。
それでも、通行人が来ないのは、恐ろしくも愚かな騒動を誰もが遠ざけているからに過ぎない。
あの、不運な女子高生を除いて。