絶対領域
女子高生の目の前にスタンガンが落ちてくることさえなければ、悲鳴を押し殺して、逃げていたかもしれない。
だけど、萌奈さんがスタンガンを飛ばさなければ、世奈くんがやられていたかもしれない。
これは、悲劇だ。
「形勢逆転、だな」
ひとしきり笑った後、リーダーらしき男は女子高生の元に近づいた。
足元に転がっているスタンガンを拾い、冷笑をこぼす。
「この女、知り合いか?」
見知らぬ男の手に、潰すように覆われた女子高生の顔を、汚い視線で舐め回す。
……ひっ!
思わず声を上げかけて、唇を噛んだ。
な、何?
このただならぬ威圧感。
あのリーダーらしき男、じゃ、ない。
もっと近くからだ。
一体、誰の……?
己の感覚を頼りに、おずおずと探ってみる。
たどった先にいたのは、凄まじい殺気で敵を射抜いている、萌奈さんだった。
す、すごい迫力……。
リーダーらしき男もさすがにたじろぎ、無意識に一歩退いた。
だが、人質を手に入れたことでゆとりができたのか、すぐにニヒルな表情を装う。
「は、ははっ!お前ら、動くんじゃねぇぞ。一歩でも動いたら、この女を……」
「その子に手を出さないで!」
遮った声は、まだ枯れていて。
想像していたよりずっと、か細かった。