絶対領域




殺気は、人一人殺せそうなくらい、とてつもなく禍々しいのに。


萌奈さんも、心の中では、怯えているのだろうか。




「この女を解放してほしいか?ほしいよな?」


「……っ」



急に態度が大きくなったリーダーらしき男に、萌奈さんは悔しそうに押し黙る。



「人に頼む時、どうすんだっけ?ガッコーで習ったよな?」



性格が悪い。

わざわざ頭を下げさせるなんて。



数秒の沈黙を置いて、萌奈さんは意を決した。



「彼女を巻き込まないでください。お願いします」


「あははっ!本当に言いやがった!お前にはプライドってもんがねぇのかよ!」



不気味な嘲笑ばかりが、鼓膜を刺す。


こんな屈辱的なことさせるなんて、ひどい。



僕以上に、翠くんと世奈くんが、憎らしげに睨んでいた。


当の萌奈さんは、意外にも、冷めた目つきをしていた。




「しょうがねぇなぁ」



やれやれ、と言わんばかりに、リーダーらしき男は小さく肩をすくめた。

女子高生を脅かしていたナイフを下げさせる。



「いいぜ?解放してやっても」


ただし、と付け足して続ける。



「お前らが俺らに攻撃したり反抗したりしなければ、な?」



そ、それって、女子高生を自由にする代わりに、僕たちの自由を奪うということ?


新人いびりに一般人を巻き込んだだけでなく、卑怯にも交換条件を利用して、僕たちを陥れようとしてるんだ。



< 238 / 627 >

この作品をシェア

pagetop