絶対領域
殺気は、人一人殺せそうなくらい、とてつもなく禍々しいのに。
萌奈さんも、心の中では、怯えているのだろうか。
「この女を解放してほしいか?ほしいよな?」
「……っ」
急に態度が大きくなったリーダーらしき男に、萌奈さんは悔しそうに押し黙る。
「人に頼む時、どうすんだっけ?ガッコーで習ったよな?」
性格が悪い。
わざわざ頭を下げさせるなんて。
数秒の沈黙を置いて、萌奈さんは意を決した。
「彼女を巻き込まないでください。お願いします」
「あははっ!本当に言いやがった!お前にはプライドってもんがねぇのかよ!」
不気味な嘲笑ばかりが、鼓膜を刺す。
こんな屈辱的なことさせるなんて、ひどい。
僕以上に、翠くんと世奈くんが、憎らしげに睨んでいた。
当の萌奈さんは、意外にも、冷めた目つきをしていた。
「しょうがねぇなぁ」
やれやれ、と言わんばかりに、リーダーらしき男は小さく肩をすくめた。
女子高生を脅かしていたナイフを下げさせる。
「いいぜ?解放してやっても」
ただし、と付け足して続ける。
「お前らが俺らに攻撃したり反抗したりしなければ、な?」
そ、それって、女子高生を自由にする代わりに、僕たちの自由を奪うということ?
新人いびりに一般人を巻き込んだだけでなく、卑怯にも交換条件を利用して、僕たちを陥れようとしてるんだ。